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大阪地方裁判所 昭和40年(ヨ)635号 判決 1967年4月14日

申請人 関岡英樹

被申請人 港運送株式会社

主文

本件申請はこれを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一、(当事者の求める裁判)

申請代理人らは、「被申請人は、申請人を従業員として取扱い、かつ昭和四〇年一月二三日以降毎月末日限り金三三、三三八円を支払え、申請費用は被申請人の負担とする」との判決を求め、被申請代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、申請人の主張

一、(一) 被申請会社(以下単に会社という)は、従業員約一四〇名を使用して一般地域貨物貸切運送業を営み、申請人は昭和三八年四月一八日会社に雇用されて以来トラツクの運転助手として勤務し毎月末日限り平均三三、三三八円の額の賃金の支払を受けていたものである。

(二) 申請人は、同年一〇月同社従業員で組織する総同盟全交通関西地本港運送支部(以下単に組合という)に加入し、同組合の組合員となつた。

二、会社は昭和四〇年一月二二日申請人に対し次の事由を掲げ解雇(以下本件解雇という)の意思表示をした。

(一)  同三九年七月六日、七日、八日の無断欠勤。

(二)  同年一〇月一一日の新聞輸送御影コースの無断欠勤。

(三)  同四〇年一月一五日の無断欠勤。

(四)  同年同月二一日の無断欠勤。

三、しかしながら本件解雇は次の理由で無効である。

(一)  (労働協約違反)

(1) (事前協議条項違反)

会社と組合との間で締結された労働協約一八条には「会社は組合員の解雇 異動 賞罰に関しては組合と事前に協議したる後決定する」旨規定されているにかかわらず会社は本件解雇を行うに先だち組合と何ら協議しなかつた。

(2) (根拠条項の欠缺)

会社が解雇事由としてかかげる前記各事実の存在しないことは後記(第五)の通りである。のみならず、仮りに存在したとしても右各事実は労働協約二四条が解雇事由としてかかげる「無届欠勤引続き一ケ月に及んだとき」外五つの項目のいずれにも該当しない。

故に本件解雇は結局労働協約の規定に基かないでなされたものといわざるを得ない。

(二)  (信条による差別的取扱)

(1) 申請人は当初組合活動に無関心であつたが、昭和三九年六月一〇日当時組合副支部長であつた申請外中前明が解雇されたことがあり、その頃から漸次労働者としての自覚を高め積極的に組合活動に参加するようになり、

(イ) 同年同月二〇日、同申請外人の送別会の席上その積極的な組合活動をたたえ退職を惜しむ発言を約一五分間にわたつてなし、

(ロ) 同年同月二八日頃、自ら企画して総同盟全交通関西地本調査部長申請外北野洋治を招き組合民主主義に関する学習会を開き組合員約一〇名をこれに参加させ

(ハ) 同年八月一二日、組合教宣部部員となり、

(ニ) 同年一一月二四日、大阪府の主催する大阪労働学校七一期の全科目を終了し

(ホ) 組合機関紙「みなと」の同年一二月一日版に「労働戦線緩和を望む」「一時金に関して」「寮社宅の料金は撤廃すべし」などと題する各論文を掲載した。

(2) 会社営業部長兼労務部長申請外加賀爪謙治(以下単に加賀爪という)は申請人に対し、

(イ) 昭和三九年一〇月一二日学校(前記大阪労働学校を指す、以下同じ)へ行つていらぬ思想をつけるな等と云い、通学を中止するよう要求し、

(ロ) 同年一一月一八日会社に協力するような組合活動をするよう要請し

(ハ) 同年一二月一日、あれだけとめた学校を卒業したらしいが、思想が変つたようなことはないかと問いただし、会社に協力しないようであれば処分する旨申し添え

(ニ) 同年同月一七日申請人の前記論文につきその内容を非難し会社の方針に反するような言動をやめるよう要請する等申請人の信条を変えさせるため種々介入行為を行つた。

右の各事実によれば会社が申請人の労働者的思想信条を嫌悪し、その排斥を意図していたことは明らかであり、このことと合理的解雇理由が存在しないこと前記の通りであることとを併せ考えれば本件解雇は右思想信条を原因としてなされた差別的取扱であると断ぜざるを得ない。

四、(仮処分の必要性)

申請人は解雇無効確認の訴を提起すべく準備中であるが、同人は会社から支給される賃金を唯一の生計の資とする労働者であるからその生活を維持するため右訴の判決確定に先だち直ちに賃金の支払を受ける必要がある。よつて本件仮処分申請に及ぶ。

第三、(申請人の主張に対する被申請人の答弁)

第二の一の(一)の事実中賃金額の点を否認し、その余を認める。

同一の(二)の事実を認める。

同二の事実を認める。但し本件解雇の意思表示が組合の承認を条件とするものであること並びに右解雇が通常解雇でなく懲戒解雇であることは後記の通りである。

同三の冒頭の主張を争う。

同三の(一)の(1)及び(2)の事実中、申請人主張の内容の各条項を持つた労働協約が存在することを認めその余を否認する。

同三の(二)の(1)の各事実はすべて知らない。

同三の(二)の(2)の事実をすべて否認する。

同三の(二)の末尾の主張を争う。

同四の事実を否認する。申請人は現在他に職を有しており、会社からの賃金が得られなくても生活を維持することは可能である。

第四、(会社の主張)

一、(解雇理由と適用条項)

申請人は目ざめの悪い性質で勤務開始時刻になつても起き出さないため、出発準備を運転手が一人でしなければならなかつたり、出発が遅れて早出作業ができなかつたりする等のことがあり相乗り運転手からの苦情が絶えず、この点につき訓戒しても反省の色がないので、会社はかねてその処置に窮していたのであるが、これに加うるに第二の二の(一)乃至(四)の事実が発生した。その内(二)乃至(四)の事実はいずれも新聞輸送御影コース(朝日、日経の朝刊を新聞社から神戸市御影の販売店まで選ぶ仕事で、午前一時又は一時二〇分に会社を出発しなければならない。以下単に御影コースという)の欠勤を含んでおり、しかも右欠勤は申請人がその前夜麻雀に熱中したことに起因し、且つ会社に対する連絡も全然なされないか、代替要員を補充することの困難な深夜になされるかしているため、会社の業務を阻害すること甚だしいものがあつた。そこで会社はその都度申請人に対し注意を促したが、同人は一向改めようとせず、却て昭和四〇年一月二二日(右(四)の事実があつた翌日)加賀爪の説諭に対し耳をかさないばかりか反抗的言辞を弄する有様であつた。

申請人の右各行為が労働協約三〇条一号三号所定の懲戒解雇事由である「一、正当な事由なくしてしばしば欠勤を重ねたるとき、三、職務上上司の指示に従わず職場内の秩序をみだしたるとき」に該当することは明かである。よつて同条を適用して申請人を懲戒解雇したのである。もつとも組合に対する申入書(乙三号証)には同条の外就業規則四三条(通常解雇の場合三〇日分の予告手当を支給する旨の規定)を引用したけれども、その趣旨は労働基準法上の即時解雇の手続をとらないことを明示することにあり本件解雇が懲戒解雇であることと抵触するものではない。

二、(事前協議と本件解雇との関係)

会社は昭和四〇年一月二二日申請人の前記反抗的態度に接し、同人との間にこれ以上雇傭関係を継続することは不可能と判断し、之を解消しようと決心した。そこで先ず申請人に対し退職を勧告したが応じないので、やむなく解雇することとし、組合の承認を求め、これを得た上解雇する旨申請人に伝えた。この時申請人は解雇通知書の即時交付を要求して止まなかつたので、会社はこの要求に応じ一月二二日付解雇通知を(甲一号証乙二号証の二)を交付したが、その直後加賀爪から申請人に対し、右通知書の日付の訂正申入れに託して解雇の効力は組合による承認手続終了の時に発生する旨特にことわり、申請人はこれを了承している。右の事実によれば本件解雇の意思表示は組合の承認を停止条件とするものであるから、右承認のあつた一月二五日にその効力を生じたものと謂うべきである。仮りに右主張が認め得ないとしても右意思表示は組合の承認の日に解雇する旨の予告としてその効力を有するものである。又解雇通知書の日付の訂正を申入れたのは右述の如く一月二二日であるが、仮りにその日が申請人本人の供述の如く一月二五日であるとするならば、右申入れにより同日改めて正式解雇の意思表示をなしたことになるので、本件解雇の意思表示が効力を生じない場合を慮ばかり、予備的に右事実に基き一月二五日に無条件で解雇の意思表示がなされたことを主張する。

第五、会社主張の解雇理由に対する申請人の反論

解雇事由(一)について。昭和三九年七月六、七、八日に欠勤したことは事実であるが、無断欠勤ではない。即ち、七月六日の欠勤については前日に配車係某を通じ、同月七日のそれについては前日に相乗りの吉川幸衛門運転手を通じいずれも口頭で会社に対し届出ずみであるが右届出の手続は従来の慣行に従つてなされたもので、もとより適法である。同月八日のそれについても前日に前記加賀爪に対し書面による届出をなしその承認を得ているから勿論適法である。

解雇事由(二)について。同年一〇月一一日の欠勤は前日菊田営業課長の指示により親会社の従業員を接待するための麻雀競技を深夜までしたためであるから正当な理由によるものであり且つ右欠勤につき事前に右菊田課長から連絡ずみであるから、手続的にも瑕疵はない。

解雇事由(三)について。申請人は昭和四〇年一月一五日の御影コースを担当していなかつたからその欠勤ということはあり得ない。又同日は休日で朝礼があるだけであるから、申請人が右朝礼に出なかつたからといつて通常の欠勤と同視し、解雇の理由とすることはできない。

解雇事由(四)について。同年同月二一日の欠勤は前日前記菊田課長の指示により当時会社の建築工事を請負つていた建設会社の接待を受けたためであり且つ事前(一月二〇日午後一一時頃)に会社守衛内海某にその旨届出てあるから右解雇事由(二)におけると同様適法である。

第六、(疎明省略)

理由

一、(争のない事実)

会社が一般地域貨物貸切運送業を営み、申請人が昭和三八年四月一八日会社に雇用されトラツク運転助手の業務に従事していたこと、及び会社が同四〇年一月二二日申請人に対しその主張の事由を揚げ本件解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二、(本件解雇と労働協約との関係)

(一)  事前協議条項違反並びにその効果

成立に争のない甲一号証、及び証人加賀爪(一回)の証言により成立を認める乙三号証によれば、会社は昭和四〇年一月二二日申請人に対し同日付を以て解雇する旨の意思表示をした後、組合に対し右解雇の承認を申入れた事実が一応認められる。右事実によれば、本件解雇は組合との事前協議を経ることなく、且つ無条件でなされたものといわなければならず、証人加賀爪(一、二回)及び同岡北の各証言中本件解雇が組合の承諾を条件とするものである旨の供述部分は措信しない。他方申請人が組合員であること及び労働協約一八条に申請人主張のような事前協議条項があることは当事者間に争がないから本件解雇が労働協約の右条項に違反するのではないかの疑を生ずる。よつて本件解雇の告知がなされたときの前後の経緯を検討するのに、証人加賀爪(一回)の証言、同証言により成立を認める乙四号証、証人北野の証言及び申請本人尋問の結果を総合すれば昭和四〇年一月二二日加賀爪が申請人に対し前日の欠勤につき注意したところ申請人は毫も反省の色を示さないばかりか、逆に「何故自分ばかりを責めるのか」と食つてかかり反抗的態を示したため激論となり、その揚句、加賀爪からそれではこの際会社から身を引いてもらいたいと退職の勧告をしたが申請人がこれを拒否したので、加賀爪はやむなく、会社としては解雇も辞さない意向である旨明かにして解雇の予告をなしたところ、申請人において後日のためぜひ解雇通知書を出してほしいと強く要求したので、加賀爪は組合長北野正男に相談しその諒解を得た上解雇通知書(甲一号証)を作成交付したが、その際同時に組合に対する解雇承認の申し入れ書をも作成して直ちにこれを組合に送付したこと、その結果同日午後五時四〇分頃から本件解雇を議するための経営協議会が開かれ、その席上組合側は最初解雇の撤回を求めたけれども会社側から同社の事業の中で新聞輸送のしめる大きな割合、従つてその無断欠勤によつて生ずる支障の看過すべからざる所以を説明せられるに及んでその態度を留保したこと、翌二三日開かれた組合の緊急委員会において申請人の弁明を聞いた上解雇の承認が議決せられ、同月二五日組合から会社に対し承認する旨の回答がなされたことを認めることができる。

思うに労働協約にいう事前協議とは、労使が何らの前提を置かないで白紙の立場から誠実に解雇理由の有無を検討し、その結果を使用者の意思決定に反映させようとするものであるから、右の協議は文字通り事前になさるべきであり、これを経ないでなされた解雇は原則として無効としなければならない。

しかしながら事前協議の究極の目的は、これによつて組合員が不当に解雇されることを防止するとともに、組合の経営参加を認めようとするにあるから、前後の事情を勘案し、右の趣旨に反しないと認められる場合には事後になされた協議を以て事前になされたそれと同視し、前者を以て後者に代えることが許される場合も絶無ではない。

これを本件についてみるのに、前記認定の事実によれば(イ)本件解雇後になされた経営協議会における協議は時期的に解雇の時と接着しており、且つこれを以て事前協議に代えることにつき予め組合長から暗黙の了解を得ていたものと解されるから、機能的には事前協議に近い実質を有していたものと考えられる。(ロ)解雇意思の表示方法としてなされた本件解雇通知書の交付は激論の末冷静を欠くに至つた加賀爪が軽率にも申請人の求めに応じた結果なされたものであり、この時の申請人の反抗的態度が甚だしく不当であつたことは、一月二一日及びそれ以前の各欠勤が後記の如く悪質であつた事実に照し明白であるから、加賀爪がこれに対し憤激し冷静を欠くに至つたのも無理からぬところである。右の事情に徴するならば、本件解雇が事前協議を経ない瑕疵(以下本件瑕疵という)を有するからといつて、これを以て会社側の協約軽視の性向のあらわれと目し得ないばかりか、この点について申請人も亦その原因を与えた者として責任の一半を負うべきである。(ハ)申請人は解雇通知書の交付を受けたときも、その後開かれた組合の緊急委員会に出席して弁明したときも、かつて本件瑕疵に言及した形跡なく、組合も亦経営協議会及び緊急委員会を通じてこの点を問題にした形跡はない。右の事実によれば会社、組合、申請人の三者とも、その意識の中では前記経営協議会における協議を事前協議と全く等価値のものとして取扱つていたことがうかがわれる。

以上のように判断されるのであつて、この判断に従えば本件解雇後なされた経営協議会における協議は、前説示の理由により、事前協議と同視され、従つてこれに代るべき性質を有するものというべきである。

そうだとすれば本件解雇は事前協議を経たものとして取扱うべきであるから、右解雇が事前協議条項に違反するが故に無効であるとする申請人の主張は採用しない。

(二)  解雇事由の存否並びに適用条項

証人加賀爪(一回)、同高橋及び同北野の各証言を総合すると、申請人は元来、目ざめが悪く、相乗り運転手に迷惑をかけていたが、入社後一年足らずで御影コース(その勤務内容が会社主張の通りであることにつき争がない)を担当するようになつてからはその弊害が目立ち夜警員運転手等が起すのに苦労し或いは起きて来ないため相乗り運転手が一人で始業点検等の出発準備を行うことも屡々あり、そのため夜警員や運転手からの苦情が絶えず、会社においてもその対策に苦慮していたことが認められる。かかる折から申請人は、昭和三九年一〇月一一日(昼間勤務を除く)、同四〇年一月一五日、同年同月二一日に各出勤しなかつたのであつて、この事実と右出勤しなかつた原因がいずれも前夜麻雀に耽つたことにある事実については当事者間に争がない。

ところで一〇月一一日及び一月二一日の欠勤につき申請人はその前夜の麻雀はいずれも菊田営業課長の指示に基き会社のためにしたことであり、且つ前日午後一一時頃欠勤する旨守衛に連絡したと主張する。右主張の内会社のための麻雀であつたとの点はそうでないとする証人加賀爪(一回)の証言に徴し認め難く、事前連絡の点は申請本人尋問の結果により申請人主張の事実を認めることができる。又一月一五日の不出勤につき申請人は同日御影コースの勤務を割当てられていなかつたからその欠勤ということはあり得ないと主張し、右主張に添う申請本人の供述があるけれども措信し難く、却つて証人加賀爪(一、二回)の証言によれば同日申請人が御影コースの担当も指示されていた事実を認めるに足る。

以上の認定に従えば申請人の右各欠勤はいずれも正当な事由を欠くものであること明らかであり、且つその回数は三ケ月間で三度に及んでいるから、成立に争のない乙五号証によつて認められる労働協約三〇条一号所定の懲戒解雇事由たる「正当な理由なくしばしば欠勤を重ねたる時」に当るといわねばならない。且つ右各欠勤はいずれも会社の業務中最も重要な部門をなすことが証人加賀爪(一回)の証言により認められる御影コースに関するものであるから業務に支障なからしめんために代替要員の補充が可能なだけの時間的余裕を置いて事前に連絡するのが会社従業員として当然の義務であるにもかかわらず、一〇月一一日及び一月二一日の欠勤はいずれも前日の午後一一時頃会社に連絡したこと前認定の通りであり一月一五日のそれは全然連絡しなかつたことが申請本人尋問の結果により認められる。このことと御影コースの出発時刻が前記の如く午前一時頃であることとを対照すると申請人が右当然の義務を果していないことは明白である(証人加賀爪の第二回証言、成立に争のない乙一六号証の三及び申請本人の供述の一部を総合すると申請人は一月一五日の御影コースの指定を受けた事実を知らなかつたことが認められるが、右につき無過失の疎明はないから、右不知に起因するあらゆる事態につき申請人は責任を負わなければならない。)。果してそうなら申請人の右各欠勤はただに前記協約の条項に該当するのみならずその情状甚だ悪質というべきである。されば会社が右欠勤の事実に冒頭で陳べた目ざめが悪い事実をも加味し、以上を総合判断した結果敢て労働協約三〇条但書所定の減軽条項(情状により出勤停止又は減俸に止める事がある旨規定していることが乙五号証によつて認められる)を適用せず同条本文を適用して申請人を懲戒解雇したことは適法であり、これを以て労働協約に基かない不適法な処分であるとする申請人の主張は採用しない。なお会社は七月六、七、八日の欠勤をも解雇事由の中に挙げているけれども、右欠勤については正当理由の欠如を断定するに足る資料がない(そのように判断する理由を陳べることは本判決の結論とかかわりないので省略する)からこれを以て本件解雇の適法性を支える根拠とはなし得ない。

三、(申請人の信条と本件解雇との関係)

成立に争のない甲三、四号証、証人中前の証言、同証言により成立を認める甲六号証の四、申請本人尋問の結果、同結果により成立を認める甲六号証の五、及び証人浦瀬の証言を総合すれば第二の三の(二)に列挙した申請人主張の各事実の外、申請人が、昭和三九年七月七日頃、先に加賀爪が朝礼の席上なした「組合運動を活発にやれば会社は潰れる」旨の発言とりあげ上部団体及び地労委に相談に行つたこと、を認めることができ、証人加賀爪(一回)の証言中右認定に反する部分は措信しない。

右事実によれば申請人が労働運動に情熱をかたむけ、会社の在り方に対し労働者の立場から激しい批判を浴せていたこと、会社が申請人のこのような思想傾向を会社の利益に反するものとして嫌悪し排斥していたことがうかがわれる。しかし他方証人加賀爪(二回)の証言によれば会社は前記二の(二)に認定した申請人の勤務態度に対し昭和四〇年一月二二日まではその改過を期待し、出来るだけ解雇を避ける方針であつたが、同日申請人が加賀爪に対し前記のように反抗的態度をとるに及び改悛の情なしと判断し、解雇にふみ切つたことが認められるのであつて、この事実によれば本件解雇はひつきよう申請人の勤務成績不良に起因するものと推定せざるを得ない。且つ信条に対する嫌悪が右推定を覆して本件解雇の決定的原因になつたことを認めるに足る疎明資料はないから右解雇を信条による差別的取扱として、無効と断ずることは到底不可能である。

四、(結論)

以上の説示に従えば本件解雇は有効と認められるからその無効を前提とする本件仮処分申請は被保全権利の存在につき疎明なきに帰し、且つ保証をたてしめて右疎明に代えることは適当でないのでこれを却下することとし、申請費用の負担については民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江教夫 小北陽三 近藤寿夫)

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